雲は低く、風は冷たい。
そんな季節に訪れたこの町は、懐かしいけど記憶よりずっと寂れて見えた。
改札をでてすぐの広場は、ほんとうにただ「広場」と言うのにふさわしい場所で、ただあけた場所。人が集まることも滅多にないし、なんでこんな場所があるのだろうと思ったこともある。
聞いた話によると、私が生まれるちょっと前に北のほうの山で温泉が出た時、町で観光を興そうとしたらしい。そのため、駅前を整備して広場を作ったんだそうだ。
でも、この町の今の様子を見ればわかるとおり、その試みは失敗している。
とにかく、私はそこで迎えに来るはずの叔父を待っていた。
電車の時間はちゃんと伝えてあるのだけど、最初から時間通りに来るとは期待してない。
叔父さんも、こんだけ寒いんだから、気をきかせて早めに来てくれればいいのに、と思う。
駅前のなにもない広場でただ待つと言うのは、寂しくてしょうがないし、なんだか惨めに感じてしまう。
駅員さんでもいればちょっと話相手になってもらうこともできるのだけど、数年前から無人駅になっているのだからそれもかなわない。
「唐沢さんいなくなってから、誰も来てないんだもんね…」
高校の頃は電車通学で、毎日この駅を使ってた。唯一の駅員である唐沢さんとは自然と親しくなった。
その唐沢さんも3年ほど前に引退して、それ以降後任の駅員は来てないらしい。
そういえば、最後にこの町に来たのはその唐沢さんの引退の時だった。
叔父の家があると言っても、滅多に来ることがないのだから、引っ越して以来は本当にそういう時にしか来てない。そして、大体そういった事情が片付いたら結構すぐ帰るパターンが多い。
ふぅっと息を吐く。やっぱり白い。こんだけ寒かったら当たり前だし、改めて確認するまでもないのだけど。
とにかく早く暖かいところに行きたかった。ふと目をやると車が通っていったが、叔父の車ではない。
ただ、その陰からこちらを見る視線を感じた。駅前広場には私しかいないから、単に目に止まっただけだろう。
そう思ったら。なにか口を動かしつつ、その人はこっちに向かってくる。私とそう変わらない、若い男の人。
相手がこっちに向かってくるので、自然と私は視線を向けていた。
作業着にマフラーを巻いた人。ちょっと驚いたような顔をしてこっちに向かってくる。
「永谷? 永谷だろ?」
「えっ……」
名字を呼ばれて少し驚く。もしかしたら知り合いなのかもしれないとは思ったけど、私は彼が誰なのか全然思い当たらなかったからだ。
「久しぶりだなぁ。高校卒業以来か?」
と言われてもなんと答えていいのかわからない。高校の時の知り合いだというのはこれでわかったけど、それでもまだ誰かわからない。
そんな様子に気づいたのか、ちょっと顔をしかめて彼は、
「もしかして……俺のことわからない?」
「あの……すいません……」
自分の口から出た声は思ったより小さかった。恥ずかしくて、視線が落ちる。相手のため息が聞こえた。
「まぁしょうがないか。もう、結構前だもんな」
「ごめんなさい」
意識して声をだしたら、なんとか普通に声は出た。
苦笑、そして
「圭介だよ。工藤圭介。高2、高3で同じクラスだった」
「あっ! け、圭介君っ!?」
思い出した。前より体格ががっしりして、顔も引き締まってるので気がつかなかったけれど、確かにかつて友達だった工藤圭介だった。
圭介はこっちをじっと見てた。
「俺そんなに変わったかなぁ? ずっとこっちで過ごしてたから全然昔と変わってないんじゃないかと思うけど」
「ううん、そんなことない、変わってるよ。前よりずっとがっしりしてて頼もしく見える」
私は感じたことをそのまま言っただけなんだけど、圭介は驚いたようだ。
少しのけぞってるので、なんだか私が悪いことを言ったような気さえする。
「私、なんか変なこと言った?」
「いや、まさか永谷がそんな風に言うとは思わなくてさ……」
「そう?」
圭介はちょっとばつの悪そうな顔をして、
「ちょっとそう思っただけだから、あんま気にしないで」
「うん」
別に気にするつもりないんだけど。と思いつつも、逆にそう言われると少し気になる。
と、ちょうどその間の悪い空気に入り込むように、一台の車が近づいてきた。間違いない、叔父の車だ。
「あ、ごめん圭介君。叔父さん来たからそろそろ行くね」
「そっか。でもよかった、久しぶりに話せて。あんな別れ方したから、嫌がられるんじゃないかと思ってた」
「あんなって……」
口にして……私は思わず叫びそうになった。なんで忘れてたんだろう。
顔が熱くなってくるのがわかった。ダメ、もうこれ以上話なんかできない。
「け、圭介君っ! あとでまた連絡するね。じゃあっ!」
早口でそう告げて、私は圭介の返事も待たずにちょうど止まったばかりの車のドアを開け、すぐに乗り込んだ。
外は見ない。見れない。きっと今の私の顔はめちゃくちゃなんだと思うし、熱くてたまらない。
「おじさん、遅い。ほら、早く…」
本当に早く出て欲しい。恥ずかしくて一秒でも早くこの場を去りたかった。
「あいよ。待たせて悪かったね、恵理子ちゃん」
いつもはムカムカすることが多いのだが、こういう時はマイペースで色んなことを気にしない、気づかない叔父で助かる。
私が圭介と話してるのは見えてたはずだが、気にも留めない。
車はゆっくりと動き出し、私は大きく息をついた。


高2の時、たまたま席が隣になった圭介とは自然と仲がよくなった。明るいし、結構面白いことも言う。
高3でクラスが一緒になった時も素直に喜んだ。私がよく喋る同じ駅メンバーが全員同じクラスになって、クラス替え万歳とか言ってた気がする。
でも高3にもなると、受験するかしないかで生活のパターンが変わってしまう。いつもの5人中、大学受験するのは私と圭介だけだった。
そういうわけで、自然と二人きりになることが増えた。でも私の中ではずっと仲のいい友達で。
だから、やっぱりあんな風に言われて頭が真っ白になったのもしょうがないのかもしれない、と自分に言い訳する。
卒業式の後、圭介に呼び出されても私はそのシチュエーションになんの疑問も持たなかった。
卒業式の後に異性に呼び出されたら誰だってわかる、はず。でも私は気づいてなかったのだ。あまりに、あたりまえの友達だったから。
「俺、ずっと前から永谷のこと好きだった。友達じゃもう会えなくなるしさ、やっぱ…言いたかったから」
聞いた時は理解できなかった。次に冗談を言ってるんだろうと思った。でも、圭介がふざけているわけじゃないのがわかって。
その後は思い出したくもない。頭が真っ白になって意味不明なことを言って、逃げ出した。
圭介とはそれっきり。多分、圭介はその態度を拒絶と取ったんだろう。
でもそういうのじゃなくて、自分でも呆れるのだけど、本当に頭が真っ白になってしまっただけ。
中学生じゃあるまいし、高3にもなってその態度はないと思う。
傷つけてしまったと思っても、それを謝る勇気もないし、ましてや自分の心を決めることなんてできやしなかった。
圭介とちゃんと話したい。でもそれは友達としてだった。それ以外は私には考えられなかった。
そうこうしているうちに時が過ぎて、すべてがうやむやになってしまったのだ。


まさか駅前広場でばったり圭介に会うとは予想だにしてなかった。
だから逆にあの事を思い出さずに自然と話せたんだけど、今考えると本当に恥ずかしくてしょうがない。
もう昔のことだけど、だからといってなかなか割り切れない。私は。でも圭介は気にしてなかった。逃げたのは、私のほうなのに。
「何年振りかね、こっちのほうに来るのは」
叔父の声で現実に引き戻された。私は慌てて思考をめぐらせ、
「えっと、三年振りですよ。ほら、駅員の唐沢さんの引退祝いの時」
「ああ。そっか、あの時はうち来なかったからねぇ。うちに最後に来たのは…じゃあ、引越し前になるのか」
「そうですね。うち引っ越してから私は大学とか仕事とかその辺りの都合でなかなか来る機会なかったから」
親戚の人とは正月に会うぐらいはあるけれど、それも叔父の家に集まることはなかったので、かれこれ6年振りということになる。
父がこの田舎町でやっていた農作物の仕分けと配送の仕事も、過疎化に伴って仕事が減ってきた。そこで、私の大学進学と同時に都会で転職しようということになった。
本当を言うと、最初の頃は余裕もあったし、こっちに来ることもできた。けど、やっぱあのことがあったからなかなかその気になれなくて。
友達と遊ぶのも、やっぱり基本的に田舎っ子って都会好きだから皆うちに遊びに来てたし、そのうち行こうという気もなくなってしまった。
だから圭介と会わなくて済んだのだが……
そうこう考えているうちに、叔父の家の近くまで来ていた。駅から歩くと40分ほどかかる場所。両親は昨日から来ているはず。
私は仕事があるから今日になってしまったのだけど、そのせいでかえって間が悪くなってしまったかもしれない。

車を降りて、辺りを見回す。裏手の山や、近くの牧場など随分と懐かしく感じる。
都会にでて6年。田舎が恋しくなりもすると思う。でも逆に田舎にいると暇でしょうがない。都合よく真ん中があればいいのにと思う。
「おじゃまします」
「あら、えりちゃんいらっしゃい」
ちょうど廊下の奥に叔母がいた。こんにちは、と挨拶もそこそこに私は家にあがった。昔はよく来た家だ、久しぶりにくると懐かしくてしょうがない。
「えりちゃん、あと一時間もしたらおじいちゃんのお墓参り行くからね」
「はーい、わかりました」
返事をして、階段を上り二階にあがる。手前から二番目の部屋が従姉の部屋。今は使われていないはずだけど、私はその部屋に行った。
やはり片付けられてて、ちょっとしたものが置いてあるだけの寂しい部屋。でも構わない、私は窓の外を見たいだけだから。この家は山のふもとで少し周囲に比べて標高が高い。特にこの部屋からなら町全体を見渡すことができるはずだった。もっとも寂れてて、都会人から見れば町と言えるような大きさじゃないのだけど。
小さく駅と駅前広場が見える。結局、隣の駅のほうがちょっと大きくなったので、余計に寂れたというあの駅前広場。さっき圭介と会った場所。そこから右手に視線を移動させると、中学校が見えた。同じ町に住んでいるのだから中学も一緒だったのだが、なぜかその頃の圭介の記憶はない。当時はわざわざ男子の顔なんて覚えてなかったんだと思う。
今度は駅から左のほうを見る。小さな商店街から更に左、そのあたりに私の家はあった。大体の場所はわかるのだが、ここからはっきりとはわからない。でも多分、空き地になってしまって見えないだけなんだろう。
それだけ見て、私は窓を閉めた。もう一箇所気になるけど、見るのはやめといた。工場のほうをみたら、逆に圭介に見られそうな気がする。そんなのありえないのだけど、なんとなくそう思ってしまってあえて見ようとは思えなかった。
駅の向こう側に圭介の家と、工場がある。同じ町に住んでいるのだから、もっと前に知り合っていればよかったのに。改めてそう思う。そうすればもっと自然に振舞えたと思う。なんでこんなに気まずい思いをしなければならないのだろう。腹さえ立ってくる。
一度怒りがこみ上げてくると、いろんなことにムカムカしてきた。そもそも卒業式の後なんかに言ったのが悪い。私はそれだけいきなり追い詰められてしまったのだし。でもそこで逃げた自分自身にもっとムカムカしていた。告白されて、頭が真っ白になって、逃げるなんて。中学生の恋愛じゃあるまいし、大学生にもなる人間のすることじゃないと思う。もっと冷静に対処できたはずなのに。
気がつけば自己嫌悪の渦の中で、私は重いため息をついていた。


墓参りが終わって、叔母さんのおもてなし料理をご馳走になりつつ毎度の親戚談話会。といっても今いるのは両親と叔父母、それと祖母。正直言うと、退屈でしょうがないのだけど、適当に付き合っていると時間が十時を過ぎていた。
ふと、脳裏に昼間言った『あとでまた連絡するね』という言葉よみがえった。その『あと』が今日でなくてもいいのだけど、無視するわけにもいかなかった。昼間唐突に会話を区切ったのも気分悪かったし、謝らなくちゃいけない。
そうは思ってもなかなか勇気がでない。気がつけば十分が過ぎ、二十分が過ぎ……
電話が鳴った。叔母さんがとる。
「もしもし。はい、永谷です。えっ?」
予感がした。圭介は昼間、叔父さんが迎えに来るのを見ているのだから、私が叔父さんの家に泊まっていることは予測ぐらいつくだろう。きっと、叔母さんのあの反応は……
「あ、そうなの。駅前で。はい、変わります。えりちゃん、電話。く」
叔母さんがその名を口にする前に私は急いで電話機を受け取った。子機なのが幸いだった。私は急いで電話を持って、先ほどの従姉の部屋に向かった。
「もしもし?」
「あ、永谷。ちょっと邪魔だったか?」
「ううん、そんなことないけど……」
私から連絡するつもりが、逆に電話されたのがちょっと情けなく思った。
「ごめんね、昼間。また逃げるようになっちゃって」
出来る限り普通に話すように心がけているのだが、どうしても声が小さくなってしまう。
「いや、いいよ。忘れてたんだろ、あの時のこと」
核心を突かれた。それは決して責めてる声ではない。圭介が悪意を持って言ってるわけじゃない。だけど……
目からは、否応なしに涙がこぼれ始めていた。
「ごめんなさい……本当に、ごめん…なさい」
「え、いや…」
動揺した声。当たり前だと思う。電話でいきなり泣かれたら、動揺しないわけない。私って最悪だ。
でも涙は止まらない。声の震えが抑えられない。
「ごめんなさい……私……」
なにが言いたいんだろう。なんて言えばいいんだろう。わからない。
でも、謝らなきゃいけない。私は大事なことを一時的にしろ、忘れていたんだから。
しばらく沈黙が続いた。涙は少し収まり、自分が思ったより取り乱してないことにどこかしらほっとしてた。
「永谷、忘れてくれよあんなこと。気にすんなよ」
思いのほか、強い口調で圭介は言ってきた。
「俺たち友達だろ? だったらそれでいいんだよ。これ以上引きずるの、やめようぜ。お互いにさ」
わかっている。そうしたほうがずっと楽だし、引きずればそれだけ疲れるだけ。でも、それで片付けていいのかと、本当に思う。
圭介だってきっとそう。今日再会してからずっと普通に接してくれているけど、気にしていないはずがない。少し落ち着いてきたから、今ならわかる。
全部、私が逃げているのがいけないんだ。あの時、その場に留まる勇気を持てなかったのが。なにも言わずに逃げたのが。答えを出さずにいたのが。
今のままでは、友達でいられない。圭介の友達だなんて、言えない。
なにかを、なにかを伝えないと。もう遅いかもしれないけど、私の答えを言わないと。
「圭介君、あの……」
私がなにを言うべきか。どうしたらけじめをつけられるのか。頭が空転して、なにを言えばいいのかわからない。
圭介は私の言葉を待ってくれていた。言いよどんだことが、なにか言おうとしていると悟ってくれたのだろう。
「圭介君は、その…今でも私のこと……」
「好きだよ。でも、もういいって。永谷だって、6年もたてば都会のほうに好きなやついるだろ? なぁ、気にするなよ」
圭介の声は、ありていに言えば自暴自棄だった。勢いに任せて、『今』から逃れようとしている。それだけ今までつらかったということ、なんだと思う。少しでも早く以前の状態に戻りたいと願っている。でも、それはかなわない願い。
今このまま気にしないと約束したって、それは実際には無理。心に嫌な気持ちはずっと残る。
だから、私は……
「逃げたらダメなんだよ。私と同じことしたらいけないよ、圭介君」
言わなくちゃいけない。少しでも正確に、私の気持ちを。
多分、ずっと私のことを思い続けてくれた圭介君のために。
「あの時…告白されたあと、私すごくつらかった。こんな大事なことから逃げ出して。もう二度と圭介君の顔正面から見れないと思って。楽しくしゃべることなんてもうできないと思ったら、悲しかった」
とにかく悲しくて。逃げた私が情けなくて、腹立たしくて。どうしようもない感情を、しばらくはいろんなところにぶつけてた。
圭介君のバカって心の中で言ってた。あんなこと言わなければ、こんなことにならなかったのに。すごい責任転嫁で、やるせなくて。
親しい友達にも話せなかった。言えなかった。誰かに言うのが怖かった。
「でもね、そういう気持ちって相手が圭介君だからなったんだと思う。他の男の子に言われても、多分あそこまであがらないし、逃げてしまったとしてもこんなに後悔しなかったと思う」
それはあくまで想像。でも、他の男子に言われても圭介ほど驚かなかったのは間違いないし、嫌な感情も長続きしたとは思わない。
「私も、好きだったんだと思う。でもわからなくて、今でもはっきり言えない。ごめんなさい」
それが精一杯。6年前のことだと、改めて実感させられる。そこまで言い切って、私は圭介の反応を待った。
「そっか……」
ポツリと、圭介は言った。きっと、その時に誰かに問い詰められれば全部うまくいったんだと思う。でもそれはifの話。
私が態度をはっきりさせれば、こんなことにはならなかった。嘘ついて嫌いとでも言ったほうがまだマシだったろう。
でも悔いても始まらない。悔いるのは電話が終わってからでいい。まだ言ってないことがある。
「それでね、圭介君。私、今のあなたの気持ちには応えられない」
一気にそれだけ言って、少し間を置いた。いろんなことを考えそうになる頭を抑えて、続きを言った。
「今の圭介君を知らないから。同じ圭介君だから、きっと好きじゃないなんてことはないんだけど……やっぱりダメ」
しばらくは沈黙しかかえってこなかった。無意味に気持ちが焦り始める。待たなきゃいけないような、なにかをいわなきゃいけないような、そんな気持ちが少しずつ強くなっていく。
「……そうだよな。ありがとう」
圭介はただ、そう言った。
「本当、言ってくれてありがとう。それと、ごめんな。変にプレッシャーかけちゃって、ごめん」
「それこそ、気にしないでいいよ。私の気持ちを言っただけなんだから」
ふと、今圭介はどんな顔をしているのだろうと思った。きっと、なんとも言えない複雑な表情を浮かべているんだろう。
電話で顔が見えないだけに、余計にそれが気にかかった。
「圭介君、だから、その、もう少し保留にしていい?」
ほとんど、自分でも意識しないうちにそういう言葉がでていた。
「え?」
「今の圭介君のこと、知らないからまた今度でいい? 会おうと思えば、これから先だって会えないことないし」
なにを言っているのだろう。言葉が口から先に出て、理解が追いつていないような錯覚を覚える。
しばらくして、私は慌てて言った。
「ご、ごめん。そんなの卑怯だよね」
そしたら圭介君は私のことを諦められなくなる。それまではまだ好きでいて欲しいと、強要しているようなもの。そんなこと言うの、ずるいと思う。
「そんなことないさ」
その言葉は、すごく意外な言葉に聞こえた。
「もう6年待ったんだし、あと1年だろうが2年だろうが俺は待つよ」
顔が熱い。今日一日で一番熱いと思う。いろんな感情が混ぜこぜになって、ただ顔は真っ赤になってるんだろうなぁと冷静な部分が思う。
嬉しいのか、恥ずかしいのか、情けないのか。
わからないけど、私はこたえていた。
「うん」


踏み出すのは、一歩。
必要なのは、いつでもその一歩を踏み出す勇気なんだと、思う。

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