「んじゃ、そろそろ寝るか」
交互にシャワーを浴びてすっきりさせた。
旅に旅では風呂やシャワーをいつも浴びれるとは限らない。
「そういえば、行き先は決まったんですか?」
「メキシコにしようと思ってる。その後は南米、そしてアフリカだ」
「メキシコなら近いですね。旅費を考えると……」
「車だな。列車は時間の無駄だ」
「ルートは?」
「この時期のテキサスは危険だろう。西側へ抜けて国境を越えようと思っている」
「なら、ロスには?」
「よるかもしれないな。その時の気分次第だ」
「気分気ままの旅ガラスですね」
「それが俺のスタイルだ。そのためには体力もいる」
「ですね」
「というわけで、とっとと寝るぞ。いつまでも話し込まないのもコツだ」
「はい」
「じゃ、お休み」
「ちょっと待ってください」
電気を消そうとしたところで綾菜が待ったをかけた。
「どした?」
「茂雄さん、ベッドで寝てくださいよ」
「だから、それは昼間に……」
「一緒に寝ればいいじゃないですか」
「いいっ!?」
「これから先、雑魚寝もあるでしょ?」
「そ、それはそうだけどよ……せ、狭いし」
「なら私が下に寝ますよ」
「それは」
「いいからっ!」
引きずり込まれた。
意外……でもないが力が強い。
「ちょっと待て綾菜」
「待ちません」
パチッという音と共に電気が消えた。
「いろいろと考えたんです」
暗闇の中、すぐ隣で綾菜がささやいた。
「どういうことを?」
心臓の早鐘は止めようが無かった。
「茂雄さんと一緒に行く意味を」
「意味?」
「はい。単について行きたいというのは理由じゃないと思ったんです」
次の言葉を待った。
「旅をしたい、と思ったのも確かです。でも、私が家を出た時点で旅みたいなものでもあったんですよ。
 それを考えると、旅、というのも漠然とだけど違うような気がしてきたんです」
鼓動を感じる。茂雄自身のと、綾菜が握っている腕からとだった。
「私……本当は……私……」
「いきなり男をベッドに引きずり込んで告白かよ」
「そ、そ、それは……」
暗くて見えないが、きっと真っ赤になっているだろう。
「あの……その……」
「バカ」
「…はい…」
「俺が必死に抑えようとしているのに不意にしやがって」
「………」
「なんだよ、その沈黙は」
「茂雄さん……一つ聞きたかったんですけど……」
「なんだ?」
「何歳ですか?」
茂雄と綾菜。
どう考えても、年齢差がありそうだった。
「今年で30だ」
「えっ!?」
「なに驚いてやがんだこの野郎」
「いえ、まさか同い年だなんて思わなかったので……」
「へぇ……同い年か…………同い年ぃぃ!?」
「はい。先日、30になりました」
むしろ年上だ。
「俺はてっきり……」
「どれぐらいに見えます?」
「まだ二十過ぎぐらいかと」
「さすがにそれはないですよ」
「いや、本当見た目はそうだって」
「それは茂雄さんもですよ。てっきり四十過ぎてるかと……」
「そこまで言うか……」
「あ、ごめんなさい」
「まぁ、お互い様だろ」
「ですね」
笑った。
そうしているうちに、綾菜がさらに近寄ってきた
「他人から見たら私たち、二十歳差ぐらいあるんですね」
「親父と小娘だな」
「ひっどーい」
「あんま似合わねえぞ、その言い方」
「……ですね……」
綾菜が腕を放した隙に茂雄は反対側に寝返りを打った。
「さっさと寝るぞ! 明日はひたすら車で移動だからな、ちゃんと寝とけ!」
「はい、わかりました」
くすくすと笑いながら綾菜が答えた。

翌朝……
「すごいもん借りてきたな……」
「最短ルートで行くと、砂漠も山中も通りますし。これならその点、大丈夫でしょう」
「……借りてきたんだよな?」
「ええ。向こうで返せばOKだそうです」
綾菜が借りてきたのは、軍用ジープだった。
しかも、使い古しの払い下げではなく、全然現役っぽい。
「レンタカーの業者に返すんだよな?」
「さぁ……その点は現地に到着して考えますよ」
……基地からパクって来やがったな……
そうは思っても、証拠も無いし、こういう車両のほうが助かるのも事実だった。
「じゃ、行くか」
「はい」
「飛ばすぜ」
「エンジン全開で飛ばせば、夕方にはロスですよ」
「……それは無理だろ」
「無理でしょうけど、勢いはありそうですよ」
「………」
ジェットエンジンでもついてたらどうしよう……と思わずアクセルを踏むのを躊躇う茂雄であった。
「大丈夫ですから、発車してくださいよ」
「なんかやけに不安にさせられるな、この車には」
「不安なんかぶっ飛ばしちゃってくださいよ」
「……だな」
これからいろいろあるだろうと思えば、こんな些細なことで気にすんのも女々しい。
踏んだ。
ちょっと踏んだだけで、かなり加速した。
「うをっ」
カーブをぎりぎり曲がりきる。
再び不安になったが、さすがにこれ以上なにも言えない茂雄。
綾菜は涼しい顔をして助手席に座っていた。

速度計を見てみた。
160マイル。
キロメートル換算すると、時速256キロ。
当然速度違反だが、街を遠く離れた荒野の道で警察に出くわすほど運は悪くない。
たまに追い抜かす他の車も平気で速度違反ぐらいしてるが、その車も止まって見える速度だった。
ハンドルを握っているのは綾菜。
「茂雄さん」
「なんだ?」
「大丈夫ですか?」
「どうしてだ?」
「さっきから黙りっぱなしですよ」
どんなチューンアップがしてあるのかは知らないが、速度計はこれでもまだ半分くらいまでしか来てなかった。
表示の最大のところは300マイル。
……タイヤで走るならばゼロヨンじゃないと出せないような速度だ。
「これってもしかして……」
「はい。借り物じゃないんですよ。私の車なんです。知人に売ってもよかったんだけど、やっぱり手放すのが勿体無くて」
どれだけ金をつぎ込んだのかは知らないが、すくなくとも必要以上のスペックを与えられていることはわかった。
そして、いたるところに綾菜のコレクションと見られる銃器が載せられていた。
弾薬もちゃんと持ってきているようなので、重量的にかなり重いはずなのだが……なのだが……。
世の中、常識では推し量れないものも存在するもんだ。

運転を交代した。
茂雄が運転している時は速度がでない。
出そうと思っても、120マイル程度より上に行かない。
「車に嫌われてますね」
「そういうもんか。別に俺は嫌われてもいいんだがな」
「ところで……」
「なんだ?」
「この前の話…」
「この前の?」
「考え事してて、そのうち話すって言ってたじゃないですか」
「ああ、あれか。気が早いな……」
「ダメですか?」
「いや、早いうちに言ったほうがいいかもしれないな」
話した。
しばらく世界を回った後……そろそろ引退を考えていること。
「まだ歳を食ったってほどじゃねえけどよ。もう世界を回るのも昔に比べてどうでもよくなってきてんだ」
むしろ、どこかに腰を下ろしたいという気持ちが大きい。
これから先、世界を回るにしてもある程度落ち着ける拠点があればまだかなり気が楽になる。
それだけでも良かった。まだ旅に未練はある。だが、このままだらだら続けるのが嫌なだけだった。
「とにかく一年……そしたら一度日本に戻る。そんで、なんか考えてやってみるのもいいかなと思ってな」
「私は、茂雄さんについていきますよ」
「お前ならそう言うと思ったよ」
「なんですかそれ。まるで私に意見が無いみたいな言い方じゃないですか」
「そうじゃねけどよ」
「じゃ、私の意見なんですけどね……」
「無理して言わなくてもいいぞ」
カチャッ
「いいから」
「お前は単に意見言うためだけにわざわざ銃を人の頭に突きつけるのかっ!?」
「弾は入ってません」
「そういう問題じゃない!!」
「とにかくですね、私の実家の話を少ししましたよね」
「ああ」
「親戚が温泉宿やってるんですよ」
「温泉宿?」
「そう」
「占拠するのか?」
「はい♪」
「……マジか」
「大丈夫です。できる限り平穏に立ち退いてもらいますから」
「立ち退かなかった場合は?」
「実力行使にでます」
「……オイオイ」
今まで何人殺したんだろう……と、ふと考えた。
「あ、実力って武力じゃないですよ」
「じゃ、なんだ?」
「なんて言えばいいんでしょうかねぇ……権力ってやつですよ」
「あのなぁ……」
「無理矢理は良くないですよね。言ってみただけですよ」
とか言いつつ、残念そうな顔をしている綾菜。
「温泉宿、か」
「でもそうすると、あまり暇無くなりますね……」
「自営業じゃねえか。なんとでもなるさ」
「無責任じゃないですか?」
「いいだろ。無責任夫婦で」
「夫婦……?」
「……なんだと思ってたんだ、今までの話を」
「あまり、意識してなかったんですよ」
「昨日とは大違いだな」
「あ、あれは…!」
珍しく綾菜が慌てていた。頬も赤い。
「ま、時間はいくらでもあるさ。いろいろと決め付けなくてもいいだろ」
「は、はい」
「のんびり、行こうぜ」
「……はい」


continued...

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