Y、信じること


「俺の持ってきたあれはもう必要無いってか?」
格納庫に巨漢の声が響く。改めてデスレックスUパイロット、高田崇。
先の戦闘が終わってから暇な静香がそれに応じた。
「そうなるのかもね。ま、いいじゃない。」
「よくない!!」
デスレックスUは格納庫のド真ん中に陣取っていた。
他より大きいからその場所なのだが、どうも持ち主の性格を反映しているようにも思える。
「ほいほい、どいたどいたぁ〜!」
洸汰が二人の間に入る。
「ん?なんだ?」
「あの小惑星を調べて来いとさ。出すから危ないぞ、ここは。」
小惑星といっても、ただの岩塊だが邪魔ではある。
「で、敵が潜んでないかチェックしてこいと。だからそっちはブリッジ待機な」
「了解。」
「俺もか…。」
数分後、Koh機は飛び立った。

「本当はそこまでしてあれを調べる必要は無いのよね。」
全員を集めて愛が発した一言はこれだった。
「じゃ、なんで洸汰を?」
『これから話す内容を聞かれると邪魔しそうだからだ。』
スクリーン上の関野が言った。
「邪魔?」
『君たちはもう、事が終わったような風にしているが、
まだ終わってはいない。』
「終わってない?どういうことだ?」
『警備部が外部に通報した。すでにこのビルの周りには
機動隊、自衛隊が待機している。』
「じゃ、帰ってもらえばいいんじゃないの?」
「愛ちゃん、そんな簡単ならこんな話にならないよ。
ようは、コスモの安全性を確保しなければいけないわけね?」
『そのとおり。それで、ここからが重要なのだ。鳥山君に聞かれるわけにはいかない。』

「ただいま〜。あれ、みんなどうかした?」
洸汰が帰ってくると、ブリッジの雰囲気は大きく変わっていた。
「お、おかえり。」
「?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべたまま洸汰は自分の席についた。
気まずい雰囲気を割るように、愛が静香に声をかける。
「えっと、コスモの位置はつかめた?」
「まだです。結構、遠いのかも…」
艦は現在、この小宇宙の中央部に向かっている。
そこは同時にシュミレータ-の中心部でもある。
「中心部がレーダーレンジに入るまでは?」
「あと五分ほどです。」
「わかったわ。総員、戦闘配置について!間違いなく、そこにいる!!」
「了解。」
「今さっき帰ったばっかなんだけどなぁ。」

来たわね。
Kohがでてくるまでは近衛艦に任せる。
最初からでてきたら…私も前にでよう。
せっかく待ったんだもん。
戦わなきゃ損よね。

「レーダーに複数反応あり。残存艦隊及びコスモ艦です。」
「フライトハッチオープン。KZ隊、先行発進!!」
「了解、ハッチオープンします。」

「じゃKoh、先行ってるよ。」
「くそぉ…俺も早く行きてぇ。」
「あわてなくても、すぐに発進命令が来るよ。」
「だといいけどな。」
「それじゃ、発進!!」

戦闘は進んでいた。
「鳥山がでないでも倒せるほど甘い相手ではなさそうだがな。」
和真がスクリーンを見ながら意見を言う。
「しょうがないだろう…奴をだせば必ず邪魔するだろう。」

「遅い!!まだか!?」
「まだよ。」
「なんでだよ!!」
「作戦があるのよ。」
「俺にも言えよ!!」
「ダメ。」
「なんで?」
「なんででも」
「くそぉ!!出せぇ!!」
「艦長命令に逆らう気?」
「艦長ったって、ジャンケンで決めただけ…」
「そのジャンケンで負けるほうが悪い!」
「うぅぅぅ、くそ…」
おもわずジャンケンで使った右手をおさえる洸汰であった。

Kohがまだ出てこない…
なんで?
近衛艦は徐々に戦闘力を失っている。
ならば作戦?
警戒しとかなきゃね。

「敵艦、撃沈!!」
静香の報告に愛がうなずく。
「よし、それじゃ作戦発動!!」
『了解。』

「まだ待機!?」
「そう。」
「なぜだ!!」
「素直に了解といえないのか、あんたは。」
「嫌だ。」
「静香ちゃん、Koh機のエネルギーパック外していいわよ。」
「うわああ!!わかりました!待ちます待ちます!!」
「わかればよろしい。」
映像は消えた。
その顔が毎回、消える瞬間くもっていることに洸汰はようやく気づいた。
ぱっと見では、それは悲しみの表情だった。
「なんだ?あいつ?」
嫌な予感が、再び胸の中でうずまく…

「コスモ艦、包囲しました。」
「近衛艦の撃沈を優先して。コスモを絶対に動かしちゃダメよ。」

なに?
なんなの?
私が攻撃をすると敵は逃げる。
私が動こうとすると進路をふさぐ。
気がつけば囲まれていた。
近衛艦は一つ一つ応答が無くなっていく。
レベルを下げたせいなんだけど、やりすぎたかしら。
でも…一体、何が狙い?

「敵はもうコスモしか残っていない…どういうことだよ、艦長!!」
「そういうことよ。」
「だからどういう…」
「コスモしか残っていないってことよ。」
「そうじゃなくて…」
「だから…」
「ええぃ!!もう俺は出るぞ!!スロットル全開!!」
洸汰の機体が青白いプラズマを噴き出す…が止まる。
「え?」
画面には[Energy Empty]の表示。
訳すと、ガス欠。
「お、おい!!どういうことだよ!!」
「そこで見てなさい。」
感情をできる限り押し殺して、愛は言った。
「コスモの最後を…」
「なんでだよ?」
「あんたらラブラブだから。」
「はぐらかすな!!なんでだよ!!」
「…黙って見てなさい。」
スクリーンから愛の姿が消える。
「なんで…だよ…」
本当は、わかっていた。
でも、考えないでいた。
こうはならないで欲しかった。
だから、あえて考えなかった…

「デスレックスU発進!!」
デスレックスは、それ自身がミサイルだ。
そのミサイルとしては巨大な体にはプログラムの強制停止コードと、
メモリー凍結コードが入っている。
「すまんな、Koh」
崇はレイ・グランディスを振り返って呟いた…

「佐伯、あの司会者に回線をつなげろ。」
「ダメです。」
「つなげろ!!」
「静香、つなげていいわ。」
「でも…!!」
「どのみち、こうなることはわかっていたことだし…」
「…わかりました…」

「おい!!」
『なんだ?』
「デスレックスUにはなんのプログラムが入っている?」
『……』
「答えろ!!強制停止以外に何が入っているんだ?」
『…メモリー凍結コード』
「…修復は?」
『七割は可能だ。だが、上の判断によっては完全に消去されるかもしれない…』
「大人の…大人の都合で、一人の女の子の記憶を消していいと思っているのか!!」
狭いコクピットの中、洸汰は立ち上がった。
当然、頭をぶつけるが、それで頭に上った血が下がることはなかった。
『コスモは自分の立場を理解してなかったのだ。』
「だからって…」
『消されるのはとうぜ…』
「だからって!!記憶を消すなんて!!」
『待て、消すと決まったわけじゃ…』
「俺が素人だからって、なめるな!!メモリー凍結って言うのは、記憶を無くすことと同じじゃないか!!」
『そ、それはどうしようもない…』
「その一言ですませる問題じゃ…」
『待ちたまえ、鳥山君。君はなにをそこまで怒らなければならないのだ?』
「決まってんだろ!!コスモを仮死状態にさせた上、記憶喪失にさせるようなことを止めさせるためだ!!」
『その上、本来なら洗脳されるところだがな。』
それは、プログラムの書き換えを意味する。
『よく考えろ。もし、ここでコスモを止め、メモリーを凍結せねば、
コスモ自身がどうなるかわかったものではないのだ。廃棄処分も考えうる。』
「廃棄処分!?」
『いくら高価で重要なものといえど、
それ以上の問題になる前に消してしまいかねないのだ。
もし、そうなったらそれはコスモの死を意味する。
たとえ逃れても、先ほど言った『洗脳』いや、『人格交換』ともいえる
プログラムの書き換えは必ずされるだろう。
いいか。コスモを救うには、コスモを止め、我々が【大人】達を説得しなければならないのだ!!』
「たとえ、記憶が戻らなくなっても…か…」
『だから、あえて言わなかった。言ってもどうしようもないしな。』
「いくら機械だからって…こんなの…ありかよ…」
うつむいて、洸汰は呟いた。

「ゴメン、艦長。こっちはこれ以上無理だ…」
「KZ…そう…」
戦況は変わっていた。
コスモは異様に強い。
あたりまえといえばあたりまえなのだが。
誰もたちうちできなかった。
KZ隊は壊滅。
レイ・グランディスも、戦闘力が50パーセントまで落ちている。
「艦長、通信です。」
「誰?」
「コスモです。」
「わかったわ…出して。」
『ねぇ!!Kohはどこ!?』
愛は脱力した。
なぜこいつのためにここまで頑張らなきゃならんのだろう?
「今取り込み中。」
「いや、今終わった。」
スクリーン上にもう一つの顔が映る。
『Koh♪』
「コスモ、話がある。真剣に聞いてくれ。」
「話していいの?」
「いいさ。」
『話?』
「ああ、お前に関することだ。」

「残り時間は?」
和真は苛立りながら聞いた。
「開始から十五時間目まであと…十分」
関野が答える。
「武安君の接続を切ろう。時間を稼ぐ。」
「わかった、切ってくる。」

意識が急に朦朧もうろうとした。
目の前が暗くなったかと思うと、視界が緑色にそまって、天井が見えた。
体がだるい。まるで、二日間ぐらい徹夜したかのように。
カプセルは開いている。
そう、現実に戻ってきたのだ。
「でてきてくれ。カプセルのスイッチは切ったからな。」
武安一哉、現実世界に帰還。

『Koh、もう時間が無いよ。私はあと数時間は大丈夫だけど、Kohは…』
「わかっている。だけど、コスモには今から眠ってもらう。」
似合わないほど真剣な口調で言う。
『なんで?』
「コスモは、人間がまだわからないだろうけど、説明させてもらうよ。」

意識が急に朦朧とした。
ぬるぬるする。
おもわず、叫びそうになったが、マスクをはめていて、うまく声にならなかった。
一刻も早く外に出たいのだが、体が言うことをきかない。
やっとのことで外に出る。
「間に合わなかった?」

そして、残ったのは一人…いや、二人。
「コスモ、すまない。」
『……』
あらかたの事情は説明した。これから、何をするか…
それに対し、コスモは沈黙を返すしかなかった。
「人間は、醜い動物だ。いいところもたくさんあるけど、悪いところも多い。
特に大人には欲が絡むとなんでもする奴がいる。
保身のために、他を犠牲にする奴もいる。」
『……』
「すまない、コスモ…」
『それしか…無いの?』
「ないんだ…他の方法は…」
『嫌だ…嫌だ!!お父様のことも、Kohのことも忘れなきゃならないなんて!!』
「コスモ…」
『怖いよ、Koh。みんな、全部忘れちゃうなんて…』
「わかるよ。わかる…けど…」
『Koh…』
コスモは気づけば泣いていた。
以前からは想像できないことだった。
洸汰が最初に会ったときは、考え方が新しい、ずれた人工知能・・・・だったのに。
今では、一人の女の子だった。
「信じろ、コスモ!!」
『?』
「自分を信じろ!!覚えているんだって、信じろ。そして、俺を信じてくれ!!」
『自分を…?』
「そう、自分をだ。」
『Kohのことは信じられる。一生懸命やってくれるって。でも…』
「一生懸命やることを信じるんじゃない。
俺がかならず君の記憶を取り戻してみせるって、
そして自分を、
自分が記憶を覚えていられる、取り戻せると信じろ!!」
『…信じる…?』
「信じれば、信じればできることもある!!」
『無理だよ、Koh。信じたって…』
「そんなことはないだろう?君のお父さんは信じた!!
君が、人間の心を持てると!!
だから、君も信じてくれ!!絶対、思い出せるって!!」
『でも…』
「俺は…コスモを信じる。
コスモが、俺のことを覚えてくれるって…」
警告音が鳴る。
タイマーをセットしておいたからだ。
残り時間は一分。
すでに洸汰はデスレックスUのコクピットに乗っていた。
「コスモを信じられる。コスモのことが……」
『Koh?』
「コスモのことが、好きだから……」
『………私のことを?』
「そうさ。」
『本当に?』
「本当さ。本当だから、ここにいる。
そうでなければ、自爆たいあたりしにいく人間なんていないよ。」
『痛いんじゃない?』
「すごく痛いだろう。でも、もうエネルギーが無い。これが一番良い方法なんだ。」
『Koh…』
「本当に時間が無い、行くぞ!!」
デスレックスUが加速する。
『Koh、私、すこしは人間に近づけたかな?』
「ああ、だいぶ近づいたよ。」
『私、人間になりたい。お父様や、Kohのような…』
「いつかなれるさ。体が違うことなんか、些細ささいなことだよ。」
『あの…』
「ん?」
コスモの艦体からだが画面いっぱいに広がる。
『私も…大好きよ…洸汰…』
「うん…」
『さよなら…』
「おやすみ、コスモ…」
巨大な爆発は、すぐに止まってしまった。
それは、シュミレーションの停止を意味した。
洸汰と、コスモの意識は深い闇の中に沈んで行って、戻ることは無いかとすら思えた。


白い…
白い…天井…
白い…シーツ…
そして…
「ここは…どこ?」
「病院だよ、洸汰。」
隣には同じように一哉がベッドに横たわっていた。
「みんな過労でここで寝てる。検査も兼ねてね。」
「そうか…全部終わったんだ。」
「コスモは…」
「最後は、間違いなく一人の女の子だった…」
「そうじゃなくて…コスモへの処遇しょぐうが決まったそうだよ。」
「…聞かせてくれ」
「コスモは、全ての記憶を消去。かわりに同型機の基礎記憶を植え付けたと…」
「そうか…」
結局何もできなかったのかもしれない。
確かにコスモは助かった。
だが、彼女は記憶を失い、もう自分を覚えていないだろう。
でも…最後の瞬間、二人は恋人だった。
だからこそ、もう気にすまい。
再び、彼女が記憶を取り戻すことはありえないだろう。
でも、信じる。
それが重要だ。
信じている限り、彼女が存在したことは忘れられることは無い。
信じている限り、彼女は、救われたのだ…



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