X、Koh


「敵艦、沈黙。これであらかた片付いたみたいね。」
静香はこともなげに言った。
「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁっ…」
祥太郎が荒い息を吐く。
「あらま、すっかり息が上がっちゃってる。」
「…お前ら…はぁはぁ…殺す気か!?」
敵陣の、よりによってど真ん中に突入させられたのである。
愛の砲撃が最もやりやすい場所ではあるが、
言うまでも無く、祥太郎の負担の最も大きい場所だ。
「だって時間を考えると、節約したほうがいいし…」
「それに、いちいち敵を追いかけて倒すのは私の趣味じゃないわね。」
「…………」
さすがの祥太郎も沈黙した。
呆気にとられたのと、一気に襲いかかる脱力感が彼の思考を強制的に止めたからだ。
そんな祥太郎を無視する形で、静香が呟く。
「さてと、現在の座標は…うん、だいぶ近づいた。」
サブスクリーンに現在地が表示される。
位置を示す光点は、出発点と目標点のちょうど中間ぐらいだ。
「現在までの所要時間は四時間。まだまだ余裕はあるよ。」
「あと十一時間…ここからが正念場ね。」
メインスクリーンの漆黒しっこくを見ながら愛が呟く。
「まだ…そういうふうに考えるには…早ぇンじゃねぇか?ここまでは前座だ。」
荒い息で途切れ途切れになりながらも応じる祥太郎。
「そうだよな、俺たちの出番が無くなる。」
洸汰がぼやくが、言葉の割には出たがってるようにも見えない。
「レーダーに反応無し。」
「じゃ、工藤。休憩してていいわよ。」
「なにを偉そうに…」
「あら、今までは前座なんでしょ?そんなんで大丈夫なの?」
そういう愛をにらみつつも、疲れてるらしく、祥太郎はぐて〜っとコンソールにつっぷした。

「オートパイロットON。やけに静かね。」
手を休めずに静香が言った。
「なんか、ボス前の気配がするのは気のせい?」
愛の顔は、嫌な予感を、ではなく良い予感を感じている顔だ。
「お、出番か?」
「になって欲しいね、そろそろ」
パイロット二人組みが立ち上がる。
「工藤、休んでられなさそうよ。前方に高エネルギー反応。」
「へいへい。」
「じゃ、二人とも戦闘配置について。相手のでかたにもよるけど仕事してもらうわよ。」
『了解』
二人はドアの向こうへ…

「こちらKoh。ブリッジ応答願います。」
『Koh?』
洸汰はなぜかあさっての方向を見ていった。
「俺のハンドルネーム。」
『ま、いいわ。敵艦は見たところ巨体。機動力のあるこっちが有利だけど、
正面からの砲撃戦だと、耐久力でまず勝ち目は無いわ。
あなたたちは敵艦の注意を引きつけて。その隙にこっちは敵艦の側面に移動するから。』
「ふ、普通にかわされたなぁ…。Koh、了解。」
「KZ、了解しました。」
一哉のほうはKZらしい。
『作戦…開始!』
「フルスロットルでいくぞ、ついて来いよ!」
Koh=洸汰が呼びかけているのは一哉ではなく、
自分の部下である、無人機たちだ。
もちろん、知能など無いが、言うだけ言っとくのが通例だろう。
「発進!」
Koh隊、九機が一斉に発進した。
急発進のせいで、格納庫内をプラズマの嵐が吹き荒れる。
「うわっ!危ないなぁ。視界が悪いぞぉ。
それじゃ、こっちも発進!」
KZ隊、こちらも九機が順次発進した。

「小型艦18、発進しました。」
「敵との相対速度、3000に固定。これでいいんだな?」
「うん、順調順調。」
ブリッジは、今回は静かだった。これからもそうだという保証は無いが。

「そろそろ来るぞ。KZ、気を抜くなよ。」
「そっちこそ。」
こちら側のフォーメーションは波状はじょう
敵艦の反応にまた対応できるはずだ。
『敵艦、小型艇を発進させました。機数、20強。』
黒い点が深青の大型艦から散らばる。
「おうおう、来た来た。KZ、ここは引き受けるからそっちはデカブツを!」
「了解。たのんだよ、Koh。」
九機が二十数機の機体と対決…小型艦同士は戦術より、大抵能力差と数で勝負するのだが、
はっきり言って機体性能の差はそれほどない。
指揮官次第、というわけだ。
「戦闘は喧嘩じゃないんだ。戦いかたってのを見せてやる!」

「Koh隊、敵小型艦と戦闘開始。KZ隊、敵後部へ回り込み、敵大型艦を包囲し始めました。」
「敵大型艦に対し…方位、マイナス45度。相対速度、3500。」
「OK、OK」
作戦はうまくいっているようだ。見た目上はとりあえず。

「六機目ぇ!!」
火の玉が目の前に現れる。
その衝撃波をかすめるようにして、淡緑色の小型艦が身軽に旋回せんかいする。
「四番機、十秒後にP・D5へ。五番機、それを援護し、P・M1から3へ。」
自ら戦闘しながらこれだけの指示を出せるのはかなりのものだ。
これがただのゲームならいい。
五感すべて感じているということは、実際に小型艦に乗っているのと同じであり、
死への恐怖が常につきまとう。
彼は、それを意に介してなかった。
そして、二十数機全てが沈んだ時、Koh隊は全機無事だった。

KZ隊は敵大型艦を誘導していた。下手に近づけばすぐに落とされる距離だ。
「こちらKZ。敵艦、予想方位へ移動を開始しました。
これ以上は危険なので一時離れます。」
『いや、艦に戻ってきてって艦長が。』
「?…了解。」
そしてこちらの九機は無傷だった。

「敵艦の砲撃が来ます。」
「あたらないわ。工藤、そのまま直進。相手の動きを見て、
あたりそうになるまでは直進を続けて。」
「無茶な指令。ま、了解」
そして、確かに敵艦の砲撃はあたらなかった。
「敵艦の有効射程はおそらく、中距離から遠距離よ。
近距離だと、出力を絞る必要があるみたい。」
愛がデーターを見ながら話す。
「なんで?」
「わからないわよ。なんか知らないけど、そうみたい。
それで、出力による誤差、接近による照準の不確定ではずしたってこと。
あとは、こっちの速さもあるけど。」
なぜ出力を絞る必要があるか?
それはマニュアルに書いてあることだからだ。
単純だが、普通のCPUは従わざるを得ない。
実際、連射力が上がるため戦術上は有効なのだが、
近距離を高速で駆け抜ける戦艦のことは予測してなかったらしい。
していたとしても、その場合、回避行動が優先だからマニュアルには書かれていない。
よって敵艦がしっかり距離を取ろうとする。
「単純なプログラムは罠にはめやすいのよ!
工藤、その場で回避機動!!
静香、メガバーストキャノン発射用意!!」
「な、なに、そのメガバーストキャノンって!?」
「あれよあれ。」
左右の翼には円筒がついていた。
巨大荷粒子砲が。無駄ともとれるほど巨大なのが。
「あれ。チャージは完了してるわ。」
「りょ、了解。え〜と、全エネルギー両翼に集中。
セーフティロック解除。発射準備完了。」
準備はあらかた整えてあったので、カウントダウンも必要ない。
「メガバーストキャノン、発射!!」

「!?洸汰、あれ!!」
「だから、戦闘中はKohだって…お!?」
レイ・グランディスを包んでいる、白いバリアフィールドが薄くなっているのだ。
格納庫からもはっきりわかった。
『メガバーストキャノン発射準備完了。総員、耐ショック体勢。繰り返す…』
合成音声が警告する。
「目がバーストきゃ〜ノン?」
「どういうボケだよ…Koh、振動が来る!!」

二条の閃光が敵艦を貫く。
圧倒的な力を前に、敵艦は粉々に砕け散った。
爆発は、そう離れていないレイ・グランディスを激しく揺さぶった。

激しい揺れが通り過ぎたあと、ブリッジには機械音だけがしばらくしていた。
皆、その威力に呆気に取られ、言葉を発することができずにいた。
ようやく、静香が報告を始めた。
「き、キャノン、冷却モードに入りました。
再チャージまで500秒。……?」
「どうしたの?」
「バリアフィールド、出力が50%に低下!!」
「な、なにぃ!?」
祥太郎がとんきょうな声をあげる。
「そりゃそうよ。キャノンの出力をあげるために、
シールド用のコンデンサからもエネルギーもらってるもん。」
「な、なんだと!?いつのまに…くそぉ…」
「ふふふふふ。私があの程度の攻撃力で満足したと思ったら大間違いよ!!」
オーバーリアクションな二人を見て、静香の口から自然と一つの言葉がでた。
「馬鹿ばっか」
その右手には、どこから取り出したのか、ハリセンを持っているあたり、
少しセリフどおりではなかったが。

小ボスがやられた…
そろそろ私も気をつけるべきね。
あの艦は明らかに私を狙ってきている。
遊びに来ている、って雰囲気じゃないもの。
あの艦にはきっとさっきの人たちが乗っている。
だけど、なぜ?
今さらここに来て、なんの解決になるのかしら?
それに、釈放だってちゃんとするのに…

「あとどれだけ時間ある?」
「残り六時間です、艦長。」
また、一戦やらかしたあとである。
ちなみに、一戦と言っても口論ではない。
それも一戦やったが。(口論と呼べるほど程度の高いものではなかったが)
「そろそろ中枢が近いな。強かった。」
洸汰が自分の席でだらけながら言った。
「洸汰、一人で奥まで行くからなぁ。恐怖ってものが全然無いんじゃない?」
「恐怖ねぇ。本当に死ぬわけじゃないし。」
「そういう問題だけじゃないと思う。」
一哉のほうはさっきからコンソールをガチャガチャいじってた。
さっきの戦闘の記録を見ているらしい。
「ほら、思いっきり単独で…」
と、そのとき。そろそろ馴染なじみのサイレンの音がした。
「レーダーに敵影!!距離、八万!!」
「じゃ、総員第一種戦闘配備。それから、キャノンの準備。」
「おい!!」
おもわずツッコミをいれる祥太郎。
「大丈夫、とどめ以外には多分使わないから。」
「多分って、信用できぃ〜〜〜ん!!」
「うるさい。」
すばやく静香がハリセンではたく。ビシッと小気味良い音と共に祥太郎は飛んだ。
なにしろ、戦闘前で弱重力である。ハリセンでも吹っ飛ぶ。
「そうだ、敵は一機だけ?」
「…恐らく。でも、ちょっと電磁妨害入ってますね。」
「そこの二人、さっきと同じ作戦で行くわよ。」
「りょーかい」
「了解です。」
そういって、パイロット二人は姿を消した。
「いつまで遊んでんのよ、工藤。全速前進!!方位、37!」
「へいへい37ね。よいせっと」
席に座ると同時に左側の静香に警戒しながら舵を切った。

引っかかった。
まさか、私がここに来ているとは思わないでしょうね。
しかし、馬鹿みたいね。
近衛艦が一艦だけしかいないのに。
判別できないのかしら?
あっちにはデータがそろっていると思ったのだけど。
これなら、あっけなく撃沈することもできるかもしれない。
でも、わからない。
あの人たち、しつこそうだから。

「工藤、ここで反転して。」
「はいはい、反転…は!?」
「そう、反転。Koh、KZ、すぐに出撃して。
この艦が反転すると同時に後ろががら空きになる。そこを援護して。
できたら、敵を沈めてもいい。」
「え?りょ、了解。」
一哉が戸惑いながらも発進する。
「なんかよー知らんけど…Koh、行っきまーす!!」
洸汰も、それを追って発進。
「どういうことだ?反転するなんて。」
祥太郎の質問は即座に無視して愛は静香に声をかけた。
「静香。レーダーを中距離にかえて。」
「より的確にするのね…えっと…?
レーダーに反応あり。機数……え!?」
レーダーを見た静香の顔がこわばる。
「どうしたの?」
「大艦隊…機数、200超!全部、戦艦級です!!」
「え?」
誰が呟いたかはわからない。だが、それが火種になる。
『え〜〜〜〜〜!?!?』
エコーはシュミレーション全体に響きわたった。

発見された!?
早い…
でも、面白くなりそう…
え?
面白い!?なぜ!?
わからない…なぜ、そう思うんだろう…

「200以上…?全部戦艦級?」
「そんな…!?いくらなんでもここまで…!?」
祥太郎と静香が呟く。
愛も黙っている。勝てるのか?
『お〜〜い。まさか戦意喪失して無いだろうな?』
顔は映ってないが声でわかった。洸汰だ。
「喪失もするわよ。なに、この数?」
『それは多分…』
『それはダミーだ、レイ・グランディス艦長。近衛艦隊5艦と、コスモ艦だけが本物だ。』
サブスクリーンがもうひとつ表示される。
そこに映った顔は、元コメッティー艦長・木下和真。
「ダミー?」
『コスモの処理能力からすれば、
確かに500対500ぐらいまでの戦闘はサポートできるだろうが、
今回は、そんなに全艦隊数がそんなに多くはない。
用件を言うぞ、ミサイルが完成した。デスレックスUが今からそっちに行く。』
関野がでて、告げた。
「デスレックスU?介入できないんじゃなかったの?」
『できなかったから、できるようにした。小型戦闘艦ぐらいなら入れる。そこまでに苦労したがな。』
『それで俺様はこいつの作成、整備に時間を費やしたわけさ。今から行く。一時間はかかりそうだがな。』

「一時間の間に、こいつらを減らしとけってことかな?」
「しかもコスモを倒しちゃならないと…」
パイロット組は敵に後ろを向けた形で待機していた。
この方向には、近衛艦一隻しかいない。
「これは頑張らんと…。KZ、行くぞ!」
「おいおい。マジで?気が早くない?」
「なんだ?偽物たくさん見てビビったか?」
「!?」
ちょっと図星だったようだ。
「大丈夫だ。あれみて何にも感じないほうがおかしい。」
「Kohは?」
「俺は普通じゃないだろうな。」
くくくっと笑いながら答える。
「ここで死んでも、現実では死なないんだよね。」
「いや、即座に死ななくとも、そうとは限らない。俺達、餓死するかもしれない。」
「そっか。だね。」
「だな。」
「じゃ、行こうか…」
「そう…だな…」
なぜか、洸汰は口篭くちごもる。スクリーンには深青の戦闘艦が映っていた。

「小型艦、行動開始。」
「じゃ、私たちも行きましょうか。戦場へ!」
「ンなこと言わんでもここが戦場だぜ…」
敵艦は迫ってきている。距離はあまり無い。あと少しで互いの有効射程に入る。
「主砲、全門開き、待機」
「それからバリアフィールドを前方に集中展開、でいいんでしょ?」
「ううん、後方に集中展開。」
「なぜに!?」
祥太郎がおもわずふりかえる。
「まぁ、見てなさい。この戦法は私のじゃないんだけどね。」
「じゃ、誰のさ?」
「あれのよ。」
小型艦を指差す。
「洸汰…いや、Kohの?」
「そ。ってことで、敵艦隊の最大射程ギリギリまで接近して、静香ちゃん、データある?」
「一応ありますけど。」
それに観念したのか、祥太郎が唸る。
「うーん、まぁ信用するか…。加速します。」

敵艦、バリアフィールドを展開せずに前進。
罠?
どうかしら…。
多分、罠だろうけど、何がしたいのかわからない。
敵の小型戦闘隊は向こうの近衛艦と相対している。
ならば…。
全艦突撃、射程に入り次第、一斉攻撃。
それで、相手の動きを防げるはず。

「目標ポイント三十秒前までにエネルギーチャージを完了して。」
「もう、大体完了しています。」
「しかし、ほんとに大丈夫か?」
「それはあんたの腕次第。じゃ、行くわよ!」
「目標ポイントまであと…5、4、3、2、1」
「メガバーストキャノン、最大出力で…発射!!」

敵大型砲、特に狙いもせずに撃ってきた…?
ダミー、近衛艦ともに大きな影響無し。
考えすぎだったのかしら?

「回頭180度!!敵艦隊が攻撃してきたらジグザグに避けて!」
「大丈夫なのかよ、こんな作戦!」
「私はこれに負けたわ。失敗はしないはず。」
「対Gキャンセラー、過負荷!!」
艦が傾く。通常では、考えられないことだ。
なにしろ、仮想であれ宇宙空間では重力の影響は小さく、
艦内の重力制御を考えれば、まったくもって傾くようには感じるはず無い。
無理な制動で、非常識なGがかかっているせいだった。
「わっ!?落ちる落ちる落ちるぅ〜!?」
「艦長!自分で発案しといてなにやってンだ!?」
「アホらし…」

「ほぅ…あれか…」
洸汰はそれ・・を見るや否やきびすを返して迫ってくる敵艦に背を向けた。
「Koh?どこに行くんだ?」
「お前は前方の敵に集中。俺はあっちのほうを助けてくる。」
「ちょ…!?あれを落とせっての!?」
「足止めでもいい。なんとかしとけ。」
「わかったよ…」

同時進行なのでわかりやすく解説すると、
敵艦隊は近衛艦このえかんおとりを一艦配置し、それとは逆方向に大艦隊を配置していた。
【レイ・グランディス】は大艦隊がいるほうに突進していった。
それと逆方向に小型艦が発進し、囮だった敵近衛艦を牽制けんせい
そして敵艦隊に接近していたレイ・グランディスが反転し、近衛艦のほうに再び接近。
それを追いかけてきた敵艦をKohが迎撃に、KZが近衛艦を攻撃。
さらにメガバーストキャノンで全て叩きつぶす。
そういう作戦だ。

「この作戦のメリットはダミーがすぐわかることと、敵艦が一直線に並びやすいこと。
先程メガバーストキャノンを撃ったのは敵を油断させるため。
…これ食らった時は本気で屈辱くつじょくだったわ…」
最後は拳と声が震えていた。
「でも艦長、さっきのわざわざ最大出力で撃たなくても…
チャージ終了するまでもうちょっとかかりますよ?」
「ギクッ」
「それに、敵艦、直線には並んでいるんですけど、
この場合、反転する前にばらけるんじゃないですか?」
「ギクギクッ」
「さらに言うなら…」
「わかったわかった。艦長はようするに人の作戦パクって
ストレス解消したかったンだろ?で、けっきょく作戦は失敗と…」
「………」
「まさか…図星…?」
「ふ……」
愛ははるか遠くを眺めていた。

「全機、散開!二番機、もう少し前へ。」
Kohこと洸汰が指示を出している。
「艦長、聞こえるか?」
『なに?』
「準備はできた。」
『そう…でもチャージがまだ…それにタイミングが間に合いそうも…』
「なに言ってんだ?ビーム系キャノンなら拡散モードもあるだろ?」
『あ…そっか!』
「そのためじゃなかったのか?それとも、そこまで考えて無かったとか言わないよな?」
『え…あ、アハハハハハ、そ、そんなことないわよ…ハハハ』
「わざとらしすぎ…」
『う〜〜だって、私この戦法嫌いだから。』
「だったら使わなきゃいいのにさ」
『しょうがないじゃない!この戦法が一番有効…』
『艦長、チャージ八割完了。拡散モードなら発射可能です。』
「じゃ、頼むぜ。全艦、作戦α発動!八番機は支援にまわれ!」

「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
「っと、艦長。タイミングは7秒後が最適だぜ。」
「わかったわよ。しゃーない。作戦コード【Yランス】発動!」
「今度はベルト閉めとけよ!!」
再び艦が傾く。
星の光が尾を引き、プラズマのちぎれ雲が薄く視界にかかる。
それを見た敵艦隊が急いで散る。
「もっかい、メガバーストキャノン、発射!!」
閃光と同時に、艦が水平になる。旋回が終了したからだ。
そして、多量の光の矢が一斉に敵艦隊に突入する。
「さて、これで沈むだけ沈んでくれないときついわよ。」

豪快ごうかいに敵艦隊が沈むのをみながら、洸汰は状況確認をしていた。
「さてと、撃ちもらしダミーは…うむ。
各機、指示された大型艦影を攻撃。」
ダミーの数はかなり減っている。なにしろバリアをはれない上、完全に張りぼてのみ。
さらに、誘き寄せられたために複雑な回避命令も間に合わず、
近衛艦もダメージを受けていた。
「さぁ、いくぞ!!」
自機のエンジンにエネルギーを注入し、加速力を得る。
「でも……ま、大丈夫か。」
一瞬、表情がかげったのは誰にも気づかれなかった。

被害、拡大。
不覚…でも、やはり勝機はこちらにある。
ほっといても持久力はこちらがはるかに上。
数も圧倒的。
ちょっとガッカリかな?
あれ?
また…
あんなの、さっさと消えたほうがいいのに…

「右舷、被弾!損傷軽微」
「工藤!なにやってんのよ!!」
「うるせぇやい!誰かサンがバリアのエネルギー持ってくからだ!!」
「文句は聞き飽きたわよ。でも…」
「ほぅ。さすがに気づいたか?敵の動きが計画的だ。本気にさせちまったようだな。」
戦力差は圧倒的。
敵に本気になられれば実は、勝ち目は無い。
「諦めちゃ…」
「誰も諦めないよ。みんな、一生懸命やってる。」
静香が先に言う。
「あと十分ぐらいでデスレックスUが到着する。それまで粘るのもわけないし、
当てる暇だってまだまだある。」
「そうそう。愛ちゃん、もっと気を楽に。」
「……うん。」

「三番機、四番機、ともに応答無し…ちっ!」
「Koh、合流して、先に後ろのやつを倒そう!!」
「だが、そしたら前線が持たない。わるいがKZ、そっちで沈めてくれ!!」
「こいつ、たぶんラス前クラスだよKoh。ちょっと無理かも…」
KZ隊はすでに半数を失っていた。
「く…。」

『そろそろ諦めたらどう?』
突如、ブリッジに少女ともとれる女性の声。
「コスモか…」
『あなたたちに勝ち目は無い。
戦力差は極端すぎるほどはっきりしている。
それでもまだ、続けるの?』
「あたりまえでしょ?私たちはあなたをこのままにする気は無いわよ。」
『残念ね。じゃ…』
『待て、コスモ!!』
「この声は…」
サブスクリーンには男が映っていた。

「コスモ、もうやめろ!!」
『あなた、誰?なんでそんなに偉そうに?』
洸汰は威勢を削がれた。
「コスモ、俺が誰かわからないか?」
気を取りなおして洸汰は全身で問いかけた。
『誰?』
あっさり。
「つ、冷たいなぁ…」
気迫が完全に抜ける。
『知り合いだっけ?』
「言わなかったけ?今日会えるかもって。」
『まさか……』
「ようやく気づいた?」
ぐてっとして洸汰は言った。
『まさか……Koh?Kohなの!?』
「他に誰かいる、君の知り合いは?」
『お父様が…』
「いや、それはいいけど」
『でも、本当に!?本当に!?』
「正真正銘の本物さ。」

「えっと…全然話が見えないんですけど…?」
「同感。」
「同じく。」
『まったくもって。』
『おーい、着いたぞ!』
最後の一人の声は誰か、して知るべし。

『Koh!!会いたかった!!』
『ちょっとまてぃ!!これは何だ!?』
そう突っ込んだのは祥太郎。
「うるさいなぁ。邪魔すんなよ、いいシーンなのに。」
『でも、Koh。なんでこんなことを?』
『お前も人を無視するな!』
祥太郎がそう言っても、二人とも聞いてない。
「そりゃ、俺達閉じ込められてるからな。」
『あ、そっか。わかった。助けてあげる。』
「お、そりゃ話が早い。」
『ちょっと待って!!そしたら私たちの苦労は一体!?』
愛の声は、やはり無視される。
『でも…そうだ。私を捕まえることができたらすぐ助けたげる。
そうしなくても、自動的にあと四時間半後には開くから。』
四時間半後…開始からはちょうど十五時間後にあたる。
「このままゲームをしろと?」
『いいでしょ?私はそのために作られたのよ。
それに、Kohと対戦したこと無かったし♪』
「いいか、ブリッジ?」
『はいはい……もう好き勝手にしてちょうだい。』

「人の話をまったく聞かなかったコスモが…あれだぜ?」
「完全にできてるわね、あの二人。」
「しかしまぁ、お熱いこと…」
『ブリッジ?』
「ああ。いいわよ。あんたらの勝手にして。もう…」
『ああ、わかった。』
『おーい、レイ・グランディス!!中に入れろ!!』

『このままだと公平じゃないわよね。私はもうちょっと奥で見てるから、来て。
そこで決着をつけるってことでいいでしょ?』
「いいよ。」
『じゃ、待ってる!』

「あれさ、本当にコスモ?」
「ようするに、極度の人見知り…とでも言うのかしら?」
「頭痛くなってきた…やめよ。転進、残った敵は?」
「えっと、近衛艦が三隻。四隻いたのですが、KZ隊が一隻撃沈しました。」
「あ、ご苦労様。」
『はぃ…休憩しますぅ…』
完全にバテてた。
「それじゃ、ぱっぱと片付けましょうか。
いや、ここはKoh様にお譲りしたほうがいいかしら?」

「一隻は俺が引き受ける、残りは任せた。」
『コスモとどこで知り合ったの?』
唐突に質問する。
「ネット通信。」
『……』
「……」
『軍事機密モノが?』
「そう。」
『……』
「俺、行くぞ?」
『あ、行ってらっしゃい』

残った三艦は意外とあっけなかった。
コスモがいなくなるとこういうものだということを、再認識させられた。
「もう、死ぬ気で頑張る必要は無いわね。」
久しぶりに仕事が無くなった静香が言った。
「これでゲームを楽しめって言われても、すぐに気持ちは切り替えられないわね。」
「そうか?俺はもともと深く考えてなかったからな」
「あんた…二重人格?」
「…まぁ、細かいことは気にすんな。」
とりあえず、一哉がバテている以外は皆、肩の荷が下りていた。
いや、もう一人…

「本当に…これで終わりなのか?」
ブリッジの隅っこで考え込んでいた。
「俺たちは…コスモは…大丈夫なのか…?」
つぶやきは、誰にも聞かれること無く…
その不安は、誰にも伝わらなかった。

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