U、真夏の戦争ごっこ


 鳥山とりやま洸汰こうたはある場所へ向かっていた。
左手には地図の書いてある広告を持ち、
右手には愛用のかばんを持っていた。
「仮想宙間戦闘シュミレーター『コスモプロジェクト』、か…」
彼はこのゲームの試行会に招待されていた。
これでも宇宙を舞台にした戦略ゲームのプロだ。
「しっかし、あっちぃなぁ〜〜…」
天気予報は無情にも最高気温三十七℃を告げていた。
まだ午前中なのだが、夏休み中はお天道様が容赦しない。
「あいつらも来るのかねぇ…」
彼の指す、あいつらとは、
このゲームの前身にあたるゲームの大会で決勝で戦ったメンバーだ。
今回のゲームは総合力の高いヤツが勝つ。
だからこそ、今回も自信はあった。
が…しかし…
「会場にたどり着ける自信がないな…」
別に道順が複雑なわけじゃない。
深刻なのは、洸汰が極度の方向音痴であるという事実だろう。

 中原なかはらあいはある場所へ向かっていた。
左手には地図の書いてある広告を持ち、
右手には愛用のナップサックを持っていた。
「私が呼ばれたって事は、あいつらも呼ばれたのかしら?」
彼女の指すあいつらとは、洸汰を含む大会で戦ったメンバーだ。
「あんまり会いたくは…」
角をまがる。そこには汗を多めにかいた高校生がいた。
「あ、中原!?」
「よりによって、一番会いたくないやつに会うとは…」
愛は頭をおさえた。
「いやぁ、迷っちゃってね」
洸汰は嬉しそうに言う。
その次は言うまでもない。愛は無視して歩くことにした。

一人一人、腕に自信のある者達が集まってくる。
リアルタイムで最大規模、かつAIが作り出す複雑な仮想世界。
それは、ゲームとは呼びつつも、実際はそれを超えたものであった。
このVR研究の成果は様々な部門において使用されることであろう。
しかしながら、宣伝は控えめだった。
未だ、完成されたシステムかどうかは現状ではわからなかったからであろう。
そのため今回、極秘で強者達を呼び、試行会を行うことになった。
それでも、情報は漏れ、周囲にはかなりの人だかりができている。
招待状を持っていなければ入れないため、
彼らは実際に本物を見ることはできないだろう。
そして、その無数の視線の中、平然と中に入っていく人物がいた。
皆はその者を畏敬いけいと嫉妬の視線で見つめる。
「はい。お待ちしておりました。中へどうぞ。」
そして、意気揚々いきようようと入っていく者も、いた。
「期待してるぜぇ〜!!おもしろいものが少なすぎるんだ、この世の中。
招待するぐらいに大丈夫だろうな?」
この人物は、それだけおもしろい物なのかと聞いているのだろう。
それに対し、そのグラサン男は口元に笑みを浮かべて答えた。
「人工知能『コスモ』には勝てませんよ。たとえあなたであろうと。
とりあえず、控え室で待っててください。」
「さ〜て、どうかねぇ」
そう言って、工藤くどうしょう太郎たろうは中に入っていった。

集合時間が迫ってくる。
息を切らせて、一人の少年が群衆やじうまをかき分けてきた。
「ま、間に合ったか?」
「はい、お待ちしておりました。中へどうぞ」
入り口のグラサン男は最後の一人、武安たけやす一哉かずやをつれて中に入っていった。
そしてもちろん群衆は実物をみることはできない。
それでも集まるのが人のさがというものだろう。
ドアは彼らの目の前でゆっくりと閉まっていった。

「お待たせいたしました。これより、『コスモプロジェクト』試行会を行いたいと思います」
わぁぁぁぁ…という歓声が聞こえるほどの人数は存在しない。
招待者は十五人。最大五人チームのこのゲームでは三大勢力となりえる人物達だ。
「司会進行の関野です。それでは、まず社長の挨拶あいさつから…」
企画側が喋るが、それを聞いている者などほとんどいない。
「なるほどね」
佐伯さえき静香しずかが落ち着き払った声で言う。
「どうしたの?」
愛が聞く。
「わざわざ私達を先に集めた本当の理由よ。」
「それはずばり…」
洸汰が口を挟もうとするが、そのまま静香が続ける。
「ネット上のゲームってどうしても強い人にはハンデがいるじゃない。」
ネットゲームにおいては難易度の調整をCPUだけでは補えない。
どうしても人数が多く、またプレイヤー同士の対戦が多いからだ。
そのため、上級者にはハンデをつけるのが普通だ。
「ところが、このゲームの場合ハンデはないンだ。
そこで難易度調整などせず、巨大勢力同士を対立させて均衡を保とうってことさ。」
今度はタイミングを計って祥太郎が口を挟んだ。
「人が言おうとしていることを先に言わないように。」
顔は怒っていたが、口調はそれほどではない。
「ようは、私たちを三チームに分けて戦わせて、それで互いにライバル心を植え付けようって事ね。」
愛が結論付けた。それと、試行会という本来の目的も兼ねているだろう。
「おーい、あの汗っかきのおっさんの後ろにこんな紙、置いてあったぜ。」
壇上の社長に視線を向けて一哉が言った。
ぴらぴらと紙をふりながら。
「え?ちょっと見せて!!」
愛が身をのりだす。
「えっと…Aチーム、鳥山・中原・工藤・武安・佐伯?」
思わず周りを見わたす。見事にチームメートがここに集まっていた。
「なにこれ?」
「要は、大会別っしょ?」
と、一哉。
確かにこの前の大会の決勝リーグメンバーだけのチームである。
「っていうか実力別じゃない?」
これは愛。それも的を得ている。
「ンなもん、気にしたってしょうがねえさ。おおかた、適当に知り合い同士をくっつけたんだろ。」
どれにしろ、別段、不満があるわけではないようだ。

「…というわけで、これよりゲームを始めます。
なお、今回は試行ということで、初期段階の機体ではありません。
中盤クラスの機体をランダムで各チームに与えます。
カスタマイズは十五分で行ってください。
では、このチーム表を…あれ?」
司会者=関野は一通り喋ったあと、振り向いた。
そして、一気に顔から血の気が引く…。
チーム表が無くなっている…
彼はなぜか上司から嫌われている。
今、これ以上の失態を見せればくびになりかねない。
彼は焦った…
焦りすぎるあまり、十秒間ほどあっちの世界に意識が飛んでいた。
気づいたとき…なぜか全員の手にはチーム表がわたっていた。
(…はっ!これは奇跡…!?)
そして、今度は安堵のあまり、数秒間意識不明。
彼が正気に戻ったとき、すでには済んでいた。
もし、彼が落ち着いたままだったら事件は起こらなかったかもしれない。
手元のノートパソコンが出していたエラー、足下のコードのデータ転送による振動。
それらは『彼女』が動き出したことを意味していた…。

「だ〜か〜ら!言ってンだろ!?それじゃ、重いっての!」
「甘い甘い甘い甘ぁ〜〜〜い!!武装は一撃必殺よ!!」
操舵手ドライバー艦長キャプテンが言い争っている。
武装についてだ。
そのとなりでは落ち込んだ顔の洸汰がいた。
「あそこでパーをだせば…!」
「ま、これもこれで目立つ仕事だろ?いいじゃないの。」
一哉が励ます。
どうやらジャンケンで役割分担を決めたらしい。
この二人は戦闘員パイロット
艦載機かんさいきである小型戦闘艦のパイロットだ。
戦闘機のようなものだが、宇宙空間なので形状はなんでもあり。
二人の後ろで操舵手の祥太郎と、艦長の愛がもめている。
「まったく、なんでこんなチームなのかしらね。」
静香が一人、冷めた口調でつぶやきながら準備をしている。
彼女は通信士オペレーター
この五人が一チームだ。
「あぁ!!もぅ、わかったわよ!これは許したげる!」
「チッ、まぁこれで妥協するか。」
口論はようやく終結したらしい。
もうすでに全員がバーチャルスコープを装着している。
これをつけていれば仮想空間の中での行動ができる。
操作ではなく、行動。そして、体験。
それがこのシステムの意義の一つでもある。
それを理解しているのかしていないのか、少年少女達はミーハーな気分で準備をしていた。

時計の針が試合開始の時刻を指す。
「全選手、位置についてください。『コスモ』作動します」

スコープが現実世界の映像から仮想空間の画像へと切り替わる。
この時点で、全プレイヤーは艦橋ブリッジにいることになる。
「静香ちゃん、メインスクリーンに設計図を出して」
「はいはい、わかりましたよ艦長」
正面の巨大スクリーン一杯に設計図が表示された。
二人の口論の結果がうかがえる。
「なんて極端な…」
この一言が洸汰の感想すべてであり、もっとも如実にそれを表現していた。

両翼に備えた巨大荷粒子砲ビームキャノン
その翼の先には高出力スラスター。
ブリッジの真下にはメインジェネレーター。
さらにそれを挟み込むように主砲が左右六連装。
後部には二十個を超えるブーストユニット。
装甲は前方と上方をちょっと強化しただけ。
【避けて当てる】の最も極端な装備だ。

滅茶苦茶めちゃくちゃね…」
静香が漏らす。
それを祥太郎が耳ざとく聞きつける。
「これが理想的な装備ってヤツだ。もっとも、もうちょい軽い方がいいンだが?」
「私としては、もうちょっと火力があってもいいと思うんだけど?」
二人の間での合意はかなりギリギリのようだ。
「スタイルはいいと思うけど?」
バランスは取れている。見た目の上では。
一哉がコンソールを操作する。
「ここのジェネレーター、もう少し下にさげたほうがいいんじゃないかな?」
「今更言わないでよ。」
静香がため息混じりに受けた。

そして結局、彼らが発進したのが一番遅かった。
「敵って、他のチームだけってことはないよね?」
愛が静香に聞く。
「CPUが最初だけあって多いみたい。でも、他のチームもここから遠くはないでしょ。」
「そう、それにボスもいないわけじゃない。」
意外にも洸汰が言った。
「どういうこと?」
「無知な艦長さんだな」
祥太郎の一言は無視して洸汰は答えた。
「『コスモ』本人だよ。ネットマナーってのは簡単に破られるから管理者が必要なんだ。
マナーを守るものを罰し、常に監視する。コスモ自身も忙しいのさ。」
「ふ〜ん。じゃ、その『ラスボス』を倒すのは最終目的ってわけでもないんだ?」
「目的は人によって違うんじゃないかな?」
二人のやりとりにまたしても祥太郎が口を挟む。
「目的、じゃなくて目標だろ?目的なんて、ンなもん最強に決まってンじゃねぇか」
「あるいは遊びでやるか…どちらかでしょうね」
静香が付け加える。
「いいんだけどさ、そろそろ戦闘宙域に行かない?」
と一哉。
「あ…そ、そうね」
「でもさぁ、この艦の名前つけてないよね?決めない?」
静香の提案で結局、また話は続き、
再び発進したのはかなりたってからだった…。

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